U理論と出現する未来

産業組織心理学のテキストを読んでいて、マグレガーのY理論、シェインのメタ人間モデル「複雑人モデル」を知り、更にアージリスや「学習する組織」とか「変革的リーダーシップ」という概念を知りました。

「学習する組織」をインターネットで検索する中で知った本が、「出現する未来」ピーター・センゲ他著 講談社 や「U理論」C・オットー・シャーマー著 英治出版です。

これらの本は、書店や図書館へ行けば、どの分野に分類されているのでしょう。
「出現する未来」は、アマゾンでは「ビジネス・経済」に分類されています。「U理論」は「投資・金融・会社経営」に分類されています。

アマゾンでの紹介分をそのまま引用します。
<【未来から現実を創造せよ】ますます複雑さを増している今日の諸問題――個人の生き方から企業経営やコミュニティの在り方、さらには超国家的・世界的課題に至るまで――に対して、我々はどう向き合い、どこに解決の糸口を探るべきなのか? 「すでに起きてしまったこと」に学ぶだけでは今日の課題には対処できない。我々は「未来から」学ばなければならないのだ、と著者シャーマーは説く。その手法を体系化した「U理論(Theory U)」は、経営学に哲学や心理学、認知科学、東洋思想まで幅広い知見を織り込んだ他に類を見ない理論であり、その深淵な示唆と斬新な構想は21世紀の世界に幅広く根本的な影響をもたらしつつある。あらゆる前提を取り払い、最も深い内面の声に耳を傾けよ――人・組織・社会の「在り方(プレゼンス)」を鋭く深く問いかける、現代マネジメント界最先鋭の「変革と学習の理論」、待望の邦訳。

【未来創造志向のリーダー像とイノベーションのプロセスを学際的に描く味わい深い一冊】地球温暖化生物多様性の問題、地域紛争やテロ、拡がる地域格差と貧富の差。すべてわれわれが緊急に解決しなければならない社会的課題である。U理論はこうした課題に対処できる未来創造志向の新たなリーダー像とその課題解決に向けたイノベーションのプロセスを提示する。著者の研究基盤である経営学に、哲学、心理学、認知科学、宗教などの知見がブレンドされた味わい深い一冊である。――野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)>


私はこれらの本を読んで、これは瞑想の現代社会での実践編であると思いました。

1970,1980年代の水瓶座(アクエリアン)ムーブメントの中で、よく「他者や社会を変えようとする前に、自分自身が変わること。自分が変われば、相手も変わる。社会も変わる。」といいました。

しかし、「具体的に自分自身のどこをどのようにして変えるのか」ということについては、

日常の中にある具体的な課題に向き合うことや各種セミナー、ある種の瞑想やドラッグによって、これまでの常識はおかしいと感じたものの、次なる人間関係の在り方はいまだ模索中であることが多いように思います。
科学が解決してくれるとか、昔はよかったという懐古的な生き方、来世を信じる神秘主義を選んだ人もいますでしょう。

私が、これらの本が瞑想の現代社会での実践編と思った理由を述べます。

チベットの般若心経」春秋社刊の10頁から、「般若と方便」についての解説があります。

仏道修行には、智慧(般若)と方便の両面がある。このうち、「智慧」の面とは、空性を正しく理解することである。>
<一方、「方便」の面とは、理想の境地を達成するために必要な実践であり、・・・一切衆生救済の目的で仏陀の境地を得るための実践が大乗の方便である。>
<大乗の道によって仏陀の境地を目指すなら、母として空性を理解する智慧、父として大乗思想の信解、菩提心、大悲などの方便が不可欠である。>

一切衆生救済の道とは、社会活動やボランティア活動だけを言うのではなく、日常の生活そのもの、教育、経営そのものが衆生救済につながれば、それが一番望ましいことだと思います。
 
そのためには、まずは止観瞑想し、「離分別」を知ること、空性の理解、心理学的な用語を使えば、認知における自分の各スキーマを自覚すること、要素論とは違った人間モデルの拡張、線型な原因論だけでなく、非線形的な因果論、複雑系システム論が必要と私は思います。

ここでいう「分別」とは、<名称や概念を交えながら対象を努力して把握する知>のことをいいます。

「授業」とか「試験」という言葉を聞いたとき、教室で生徒が教壇に向かって一方向で坐っている風景のみを思い浮かべるとしたら、一人一人別々の机に座って、一人一人試験用紙を配られ、隣の人と相談することなく試験を受けている風景のみを浮かべるとしたら、それがスキーマです。

過去はこうだったから、未来はこうなるだろう、という予測は大切です。しかし、私たち人間は、今起きていることの原因をすべて知ることができるわけではないと思います。


「法はもとより言なけれども、言にあらざれば顕われず」 空海