からだの復権

リンパマッサージと気功体操講座 資料  2011/4/16土曜 市野々 NPO熊野みんなの家

< はじめに >
からだへの摩擦刺激、圧刺激等が、リンパや血液の流れを促し、皮膚内臓反射の働きによって内臓の働きを活性化し、精神的な安定・癒しをもたらすことは、人類の長い歴史の中で、体験、実証されてきました。            

 「手当て」という言葉がありますように、医療・介護においては、
まず掌をからだに当てることが基本になります。
人が人に触れることには、限りない奥深さがありますが、同時に誰もができることです。

 今回、健康増進とコミュニケーションの促進を願ってリンパマッサージと気功体操を紹介するにあたって、その基本と奥深さについて述べようと思います。

< よりよく生きることの基本 感覚器官を磨く 触覚 >
 お釈迦さんのお弟子さんが、釈尊に尋ねました。『「一切皆空」とか「一切は縁起する」とよく言われますが、「一切」とはどういうことを言いますか?』 釈尊は、『一切とは、色と受である』と答えています。 「色」とは外界や物質的な存在のことです。 「受」とは、感覚に始まり、認識し、判断する働きです。
 ですから、生きることの基本、つまり認識し、考え、行動することの基本は、先ず何よりも情報を感じ取る「受」が大切です。 情報を受け取る感覚については、五感とか六感とかよくいわれます。
 視覚も聴覚も嗅覚も味覚も、実は触覚が変化し発達したものです。基本的な感覚である触覚が鋭く豊かになると、他の感覚や中枢神経も敏感になり、色々な能力も向上します。

< 例えば 話すことや読むことと触覚との関係 >
 話し言葉を使ってコミュニケーションするという働きにおいて、それは発声器官と聴覚が基本になっていると、誰もが思うでしょう。より詳しく観察してみると、正確に発声にするには触感が大切なのです。 フとプとブのちがいは、唇の触感が頼りに成ります。英語の発音ではよく、LとRの発音の差が分かるのが難しいといわれています。Rは舌を口腔内のどこにも触れない位置にするという「負の触感」が必要なので難しいのです。聴覚以前に、触覚がうまく働かないと、話すことが難しくなります。

 では、文字言語のひとつである書道において、お手本を参考に書き、上達させる場合、どの感覚が大切だと思いますか? 多くの人は、見ること、読むことを考え視覚だと思うのではないでしょうか?

 聴覚言語の場合、聞く以前に話すことが必要なように、文字(視覚)言語においても、読むこと以前に書かねばなりません。 筆遣いにおいては、てのひら、指先の皮膚感覚・触感が大切であり、内部感覚つまり位置覚、第六感が大きな働きをしています。

< 癒し、心身の発達と皮膚感覚 > (アタッチメント 内臓皮膚反射)
 日本人なら、ツボという言葉は日常でよく使うでしょう。からだの特定の部分を刺激することで、内臓の働きが活性したりします。これを西洋医学では、内臓皮膚反射と言います。
 
 心身の発達と皮膚感覚については、アカゲザルの実験が参考に成ります。
ハーロウは針金と授乳器から成る母親モデルと、毛布が巻いてあるがミルクは出てこない母親モデルという、二つの対照的なモデルを使ってアカゲザルの赤ちゃんの行動を観察しました。小猿は腹が空くまで毛布を巻いた「手触りがよいが、機能的ではない母親」モデルにしがみ付き、どうしても空腹が我慢できなくなると「手触りは悪いが、機能的な母親」モデルの与えるミルクを飲んだとされます。触るという行為によって、安心感、幸福感を得ていたといわれています。
 
 異なった言語の人々がコミュニケーションするには、辞書や翻訳が必要になってきますが、肌と肌の直接の触れ合いの場合は、翻訳は必要なく、ヒトと動物との間のコミュニケーションも可能となります。      
 触覚は、生きること、コミュニケーションにおいて、最も基本的な感覚と言えます。

< マッサージと触感 >
  治療を目的とするマッサージにおいては、触れる位置や強さ、深さ、方向など注意すべきこと、学ぶべきことが色々ありますが、同時に誰もが、どこででも始めることができます。その時、一番大切な基本は、姿勢と呼吸とリズムです。

 触れる強さは、相手によって部位によって違います。相手に聞きながら調整しましょう。
 触れる方向は、基本的には末梢から中心部に向かって撫ぜ擦ります。
 姿勢は、マッサージする側、される側ともに楽になるような姿勢を、その都度探しましょう。
血行は、マッサージされる側よりもする側の人の方が良くなります。
 呼吸は、集中した時に、息をつめてしまわないようにしましょう。
こころの有様は、気づかぬ間に姿勢や呼吸やリズム、圧力となって現れます。掌に集中することで、心の有り様に、気づくことができます。
 
< マッサージという瞑想 > (調身 調息 調心)
 目標を定めて、そこへ到達しようと努力することも大切なことに違いありませんが、現実をありのままに受容することも同時に大切です。指先の感覚に集中し、丁寧に触れていると、呼吸が自然に深くゆっくりしたものとなり、ありのままを受け入れるこころの状態に成ります。

< 脳梗塞のリハビリと皮膚感覚 認知運動療法 >
 脳梗塞後のリハビリにおいて、筋力回復や関節可動域を広げるリハビリも必要ですが、壊れたシナプス結合を回復させるには、皮膚感覚への丁寧で微妙な刺激が有効です。