一本の樹 それは抱きあって立つふたりの姿

あのひとは 駅で 待っている
数分前 メールが届いた 「改札口に、今、います。」
あと十数分で 列車は 駅に着く  逢・え・る
高鳴る胸の鼓動 うれしい うれしい うれしい
喜びの時 だけど 同時に
今まで 味わったことのない 胸の苦しみ
喜びに震えながら 早く早く喜びの時間が 過ぎますように
日常生活の中では 十数分なんていうのは
知らぬ間に 過ぎていく時間 1時間、2時間だって
瞬く間に 過ぎ去ることがある
なのに 一分間が過ぎるのが 苦しい
はやく はやく はやく はやく
ここ数時間 ここ数十分 そうやって 時間を
確かめ 確かめながら 来た
はやくはやく はやく 過ぎていきますように
列車は駅に着き 私は列車を降りる
急がずに 一歩一歩 確かめつつ 歩く
改札口のむこうに あのひとは いる
流れる人の向こうに 人の流れの向こうに
あのひとの すがたがみえる
一歩一歩 近づき 抱きしめた
抱きあって 私たちは 風にそよぐ 一本の樹になった
2022.6 一本の樹 詩・阪口圭一
猫、室内、テキストの画像のようです
 
 
 
 
ばば やすえ