全体論の日常生活  知られざるあなた 知られざる神

 Kが目を覚ました時、窓の外はまだ薄闇でした。Kの手は隣に寝ているTの左胸におかれています。手術前のTは、豊満というか、肉付きのいいからだをしていましたが、術後一年経った今は、細身となっています。胸もかつてのような弾力やふくらみではなくなっていますが、肌はなめらかで、胸のふくらみも手に余るほど。その掌と指先に交互に少し圧を加えると、掌の中で乳首が膨らみ始めました。
Tは横向きになり、Kを抱きしめていいました。「大好きだよ」
    
K「夢を見ていたんだ」
T「どんな夢?」
K「ネオ・ロマンチシズムの夢。客観と主観について君と話していた。」
T「眠る前の話の続きね、小田垣雅也さんの<現代のキリスト教>を読んでいたからだね。
 それで、どんな内容?」
K「ちょうどいまみたいにさ、抱き合ったまま君に言うのさ。<仮にものの見方を客観と主観に分けるとしたら。客観は骨のようなもの。生きている僕が生きている君と触れ合うのは、骨と骨ではなく、肌と肌。>って。」
    
T「最近電車に乗ったことある?」
K「夏にスクーリングに行ったとき乗ったよ。」
T「そのときどうだった?ガタンゴトンと音がした?」
K「在来線はしていたと思う。新幹線はあまりしなかったと思う。」
T「レールはね、普通一本が25メートルで、夏と冬では10ミリぐらい長さが違うんだって。」
K「だから、つなぎ目で少し隙間を作っているんだね。そこを電車が通過する時ガタンゴトンと音がする。」
T「それでね、レールの客観的な長さ、というか本質的な長さって、どういうことを言っているのでしょう、どうやって測るんでしょう?気温何度の時のレールの長さが客観的なんだろう?」
K「同じ客観といっても、真理的・本質的な客観と真実的な客観があるのかな。例えば、夏と冬では伸び縮みするとして、気温25度の時には、気温25度の真実的な客観的な長さがあると思うよ。」
T「それで、真理的であれ真実的であれ、どうやって測るの? 25メートルだと巻尺で測るの? 誤差は出るでしょうし、それに巻尺自体が気温で伸び縮みするでしょう。」
K「そうだね。レールを測るときだってこうなんだから、人間が人間を測定するとなるともっと慎重にならないといけないね。」
T「人間を測る?」
K「身長とか体重のことだけでなく、例えば心理測定のこと。
  決して心理測定はいらないとかおかしいって言っているのではなく、ある時、ある場所での測定ってことを自覚するのが必要だろうと思う。心理測定し、それだけでその人を分かったなんてことはないように思うんだ。心理測定だけでなく、僕は君と30年以上暮らしているけれど、未だ君の全ては知らない、君のおっぱいのことも知らない。・・・・・・知られざるあなた、知られざる神、ネオ・ロマンチシズム・・・・・・・・・・」
T・K「***********」