誰もわかってくれない

誰もわかってくれない

 ある時、ある処のある家族に、「誰も私のことをわかってくれない」と母親や、姉と衝突を繰り返す娘がいました。普段は、家の中の人の嫌がるような仕事を引き受けているのですが、仕事上などで自分の思うようにならなく行き詰ったりすると、母親や姉とぶつかり、口調も変わり、過去のことを引っ張り出して、「私は幼い頃、保育園や学校でいじめられた」その時も今も、「私ばかりが嫌な仕事をしている」「誰も私のことをわかってくれない」といって感情を爆発させ、衝突するのでした。 母親はそれに対して、これまでどんなに娘たちのことを思い、努力し、世話をしてきたかと反論し説得するのでした。
 これまで色々あって、母娘の衝突には口出しをしないことにしていた父親が、何度かそのような場面に出くわしたある日、娘に問いました。

 「君は、誰も私のことをわかってくれないというけれど、君自身は母親のことをどれだけわかっているんだね。母親のこと、想いのすべてをわかることなんてできると思うかい。 君が母親の全てを理解なんてできないように、誰かが君の全てをわかるなんてことはないのではないかな。 大人になるとはね、誰も私をわかってくれないということを受け入れていくこと、人は、それが親子であろうと夫婦であろうと、わかりえるわけでないということを受け入れていくことだと思う。
 君の言動を見ていると、私は大人になりたくないと言っているように、私には思えるよ。理不尽なこと、不条理なことこそ、人を育ててくれるものだと思う。」

 (人が人のことすべてをわかるなんてことはないであろう、しかし人でない存在が全てを見ているという感覚を持つことができる、そしてその時には、もうわかって欲しいという思いはない、ということについてはまだ伝わらないと思い、父親はそのことは話しませんでした。)