セックスとインタラクション

「ねえ、セックスがどうしてとても気持ちいいのか、言葉で説明してみて」と彼女が言う。
「そういうこと、わざわざ言葉で説明するかなあ」と私。
「私は、言葉でも感じたい人間、感じる人間なの。だから言ってみて」と彼女。
 
「じゃあ、インタラクションって言葉知ってる?」
広辞苑には載っていないけど、いつの間にかコンピューターとかロボットに関して日常語になりつつあるね。」
 
「インタラクションのインターはね、インターチェンジとか、インターナショナルとか、インターバル、インターセプトのインターで、<間>という意味だよね。
 ラクションは、アクションで、<動き>とか<作用>という意味だね。
 普通、コミュニケーションというと、人と人が言葉や動作を使って情報交換するイメージが強いよね。ところが最近は、ヒトがロボットと、ヒトが機械とコミュニケーションする場面も出てきた。それで、コミュニケーションの概念をもっと広げて、人と人のコミュニケーションだけでなく、人と物、人と機械のコミュニケーションを含めて、インタラクションというようになってきているみたいだよ。」
「それで?」
 
「顧客間インタラクション、という使い方をすることもある。
 その場合、インタラクションを相互通信という意味で使っているみたいだけれど、インターラクションって相互通信とは限らないんだ。」
「ふーん」
 
「これは、<キネステティク健康増進と人の動き>という本からの受け売りなんだけど、
 インタラクションには3つのパターンがあるんだ。 
 ひとつは、同時性双方向性インタラクション。
 例えば、社交ダンスをしている時とか、合唱で歌を歌うとか、セッションするとか。
 ひとつは、直列式あるいは調歩式インタラクション、普通の会話がそうだよね。
 ひとつは、一方向性インタラクション
 例えば、本を読むとか、テレビをみるといったことだよね。
 そこでね、セックスってどのインタラクションだと思う?」
「同時性双方向性インタラクションと言いたいところだけれど、必ずしも、同時性双方向性インタラクションとは言えないな」
 
「現実に今目の前に居て、触れている相手とインタラクションしているとは限らないものね」
「イメージや思い込みが先行しているときだね。
 ところで、あなたそういうのを経験してるってこと?」
 
「いやいや、官能小説なんていうのを読んでいて、これって動物的ではあるけど、双方向性じゃないなって思うことがあるんだ」
「ふうん」
 
「僕達ってさ、まっさらな無垢な状態で、セックスする訳じゃない。
何らかの偏見、思い込みを持っているさ。文化や育った環境の影響を受けるさ。
そのことを自覚した上で、その時二人だけの、唯一の一回性の新たな関係をその都度創造する
そういう時って、セックスに限らず気持ちいいんじゃないかな。その為には、何事にもとらわれない柔らかさ、日々新たに生きる心、丁寧に丁寧に触れ、感じる感性が大切だよね。あれれ、聞いてる?半分寝ちゃってるよ。」
「そうよ、あなたの声って、私にとって子守唄なの。おやすみなさい」