太極拳は、日本では、いまや武道というより、健康法として広まっている感がある。
もちろん、太極拳を続けていると健康増進になることは間違いない。
生理学的には、呼吸が深くなる。
緩やかな動きは、エアロビクス・有酸素運動となり、全身の血行・リンパの流れがよくなる。
動作的には、効率のいい動きを身につけ、無駄な力が抜け、怪我が少なくなる。姿勢がよくなる。
精神的には、動く瞑想と言われるだけあって、感覚が鋭く豊かになり、今ここに心をとどめることが多くなる。その結果、過去や未来に関わるマイナス感情が消えていく。
しかし、この段階では、瞑想ではシャマタ、止観のうちの止の段階といえる。
確かに、個人のからだは、太極拳をしないよりしたほうが健康増進になるが、個人の体(心身)というのは、環境や他者から独立して存在するわけではない。
例え、どんなに理想的な健康法があろうとも、人間はやがて必ず衰え、この世を去る。
今ここに目覚めることは大切だが、諸行無常、「今」もまた常に流れ変化する。
今ここにしか生きられないことは確かだが、今ここを未来、過去から切り離して、今ここに執着すれば、刹那主義に陥る。
シャマタ・止により、今ここを、持続的に冷静に見つめる目を獲得し、この世界、この自分、世界と自分を見つめた時、そこのどのような世界が展開するか?
例えば、秩序の縦糸と、混沌としたカオスの横糸が織り成す世界が見えてくる。
縦糸がないと、横糸は動きようがないが、縦糸だけでは世界は織ることができない
どこまで行ってもカオスはカオス
同じように見えていて、一度とて同じ太極拳の演舞はない