蛍にんげん 衣通郎姫

「蛍」は、なぜ自らのからだを、光らせることができるようになったのだろう。
 
素人なりの仮説を考えた。
 
蛍は、小さくて弱い存在。

だから、生命活動は、捕食者に見つからないよう、夜に行うようになった。
 
でも、それでは子孫を残す活動も難しくなる。
そこで、からだの一部が光りはじめた。
 
発光の基になる「ルシフェリン」という有機化合物が、
発光酵素「ルシフェラーゼ」の働きで酸化され、光を放つ
 
光は「信号」
個性を主張するような「記号」ではない
 
では、なぜ「ヒメボタル」の雌は、空を飛ぶ羽を退化させてしまったのだろう。
 
ともかく、この地球に生まれ、何かを食し、幼虫から成虫となり
自らのからだを光らせ、交尾し、子孫を生み、死んでいく、
その繰り返し繰り返し。
 
かつて、地球上に、ネアンデルタール人クロマニョン人が、同じ時期生きていた。
 
口腔の構造の違いから、ネアンデルタール人は、あまりたくさんの言葉を発しなかったと思われている。
 
それで、ネアンデルタール人はやがて滅び、
現代人の祖先であるクロマニヨン人が、繁殖することになった。
 
「信号」ではなく「記号」としての言葉を発することが出来るニンゲンは、
 
やがて、摩天楼を築き、月の石を持ち帰り、
原子力発電所を建てるようになった。
 
原子力発電所から、プルトニウムを作り
一瞬にして、数十万人の命を奪う力も得た
 
だけど、同じ地球の上で
複雑な記号を使うことがなくても、花は咲き、虫たちを誘う
春になれば、ツバメがやってきて、巣をつくり、又帰っていく
 
複雑な記号を使うことによって
ニンゲンの雄と雌は、お互いに深く理解しあえるようになったのだろうか
ツバメ以上に、生命体として幸せなのだろうか
 
と、こうして「記号」によって、私は光を放とうとしている。
 
ただ記号による光は、信号による光と違って
限りなく弁別を繰り返していく。
 
限りない弁別によって、特異性を形成しようとし
 
その特異性ゆえに、孤独に陥る
 
ネアンデルタール人は、もしかして、蛍のように光っていたかもしれない
 
クロマニョン人にも、もしかしてその名残があるかもしれない。
 
灯りを消して、今宵、ほたるになってみましょう
 
衣通郎姫は、光っていたのでしょうね
 
「我が背子が来べき夕なり ささがねの蜘蛛の行ひ今夕著しも」