心理学とビパッサナ瞑想 資料1  

心理学とビパッサナ瞑想 資料1              2008.10.8

<苦しみとは思い通りにならないこと>

 古代インドのパーリ語では、「苦」のことを、dukkha  (ドゥッカ)と言って、元々の意味は、「思い通りにいかない」という意味です。

 私達が日常よく使う言葉で、仏教から出た言葉に   「四苦八苦」という言葉があります。生老病死苦の四苦、怨憎会苦、愛別離苦、求不得苦、五陰盛苦の四苦を合わせて、四苦八苦と言います。いずれも、なかなか自分の思い通りにはいかない事柄です。私達は、生老病死をきっかけに、いろいろ悩み苦しみます。
  

<受容 勇気 智慧
 「ニーバーの祈り」という、祈りの言葉があります。

THE SERENITY PRAYER
O God, give us
serenity to accept what cannot be changed,
courage to change what should be changed,
and wisdom to distinguish the one from the other.
神よ、
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さ(心の静けさ)を与えたまえ。
変えるべきことについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する智慧を与えたまえ。
             Reinhold Niebuhr

智慧としての心理学と瞑想 気づくこと>
変えようとしても、変えることのできないものは、受け入れなくてはなりません。
変えることのできないことを受け入れる「受容」
変えられることを変える「勇気」
変えられないことと変えられることを見分ける「智慧
それらを育てるものが「ビパッサナ瞑想」と「心理学」です。

瞑想の目的は「覚醒」です。覚醒とは「気づく」ことです。
気づくことを、英語では、AWARENESSとかMINDFULLNESSといいます。
 
一体、何に気づくのでしょうか?

(思い通りにいかない状況を含めて)ある状況においての、自分自身の行動や湧き起こす感情の決まり切ったパターン、学習された条件反射行動に気づきます。

私達は、自分自身の行動については、あまりにも当たり前・自然すぎて、本人こそがそのパターン、癖、条件反射、思い込みになかなか気づけません。

私達は、子供の頃から無数の試行錯誤を重ね、様々な課題に対して、対処行動(パターン)を身につけていきます。幼い頃に上手くいった方法を、大人になっても、状況が違っても、選び続けたりします。そして、「上手くいくはずなのに、思い通りにならない」「こうあるべきなのに、そうならない」といって苦しむのです。
 
その傾向性や一貫性を、癖とか性格(らしさ)とか「常識」
「信念」「行動マニュアル」「物語」と言ったりします。

この癖、性格、常識、信念が、あるときには問題を解決しますが、同時にあるときには問題をうみだしているのです。
変えることのできないことを受け入れる「心の静けさ・受容」、
変えられることを変える「勇気」、変えられないことと変えられることを見分ける「智慧」は、外側の世界に起こる出来事に対してだけでなく、自分自身の行動や感情についても当てはまります。「出来事(刺激S)と認知Oと行動(反応R)の結びつき、そして認知の構造の内容」は変えることができます。

<S‐O‐Rの結びつきを解き、変容すること>
瞑想とは、覚醒すること、気づくことと述べました。
「気づく」とは、「言葉にすること」です。
瞑想の第一段階として、「シャマタ瞑想」があります。「止観」の止です。具体的な方法として、呼吸に気づき、言葉にします。
安定した姿勢をつくり、自分が今「息を吸っているか、吐いているか」にまず気付きます。吸っているときは、「吸っている」と、吐いているときは「吐いている」と心の中で言葉にします。呼吸を見つめていると、自然にゆったりした呼吸になります。

気づくことができたら、さらに吸ったり吐いたりしているときの「からだの変化」に気づき、言葉にしていきます。
「吸っている、おなかが膨らんだ、横腹が広がった、胸が膨らんだ、肋骨が動いた、肩甲骨が広がった、肩が上がった」という感じです。
こうやって、より細かなところに気づき、自分の呼吸やからだの変化を見つめ、言葉にすることができるようになったら、次に、心の変化を見つめ、言葉にしていきます。

しかし、これは、一日の内の一部分の気づきです。これを瞑想トレーニングと言います。瞑想トレーニングが充分できるようになったら、非坐非行三昧、朝から晩まで自分の行動を見つめ、パターンを見出して、その適切性を判断しながら、行動します。
 瞑想によって、今まで同じように見えていた出来事に対して、微妙な違い、差異を見出すことができるようになります。そして、さらに瞑想を続けることによって、差異(違い)をうみだしている差異(構造)が見えるようになってきます。
そうして初めて、対象の違いに応じたより適切な行動を選択できるようになります。