痛みと脱力

これまでの人生で味わった最大の肉体的苦痛は、
20歳代の時、タイで赤痢になったときの痛みだ。
   
 どう生きていくべきか、答えを見い出すべく、国鉄を辞めて、東南アジア方面に放浪の一人旅に出た。
  
 バリ島からバンコクヘ行き、なるべく現地の人々が食べているレベルのものを食べた。水も飲んだ。
 赤痢になった。
  
 がんがんと頭痛がする。
 寒気がする。
 おなかの中に棒を突っ込まれ、ぐりぐりかき回された様な痛み。
 黒くてどろどろした腸壁がでる。
  
 あまりの痛さに、もう死んだほうがましだと涙を流す。
   
 生きたいという思いも、体面も、脱力して抜け落ちていく。
   
 すると、それまでの痛みが嘘のように消えていった。
 ああ、このまま死ぬんだな、と思った。
 大地に包まれた感じになった。
  
 あの時の脱力感が、からだに残っている