テレビのない山の朝の目覚め

テレビのない山の朝の目覚め
 
山の朝は 鳥の声で目が覚める
谷の底を流れる川の水音が 床から響いてくる
 
薄い闇の中 季節ごとに 鳥の声は変わり
やがて朝の光が 家の中に射してくる
 
鳥達が鳴いている山には かつて棚田があった
年貢を納めながら 額に汗し切り開いた田んぼ
 
時代が移り 村人は田んぼに木を植え 街へ降りて行った
街の朝は 時計や車やテレビの音で目覚める
 
テレビのない山の家で 毎朝鳥の声に耳を傾ける
一ドルが今いくらなのか、私は知らない
 
それどころか 私は何も知らない
あなたのこと 私のこと 異性のこと 
地球のこと 宇宙のこと
 
混沌とした世界の中で 永らく旅を続け
疲れた日には もう死んでもいいやと思う日もあるが
 
山懐に抱かれて眠り 鳥の声と川の水音に目覚めると
新たにこの世に生まれた赤ん坊となり

知っているつもりで全然知らないこの世界を丁寧に触れ
未知なる筋肉を探りながら ゆっくりと寝返りを打ち 起き上がる
 
やがて 時計の音と車の音と習慣が洪水のように訪れ一日が始まるが
夜の闇と鳥の声が 私を新しくさせてくれる
 
鳥達は空に向かって歌を歌う あの青空にも 無数の星がきらめいていると
朝の光でみえなくなるのではなく 習慣が見えなくするのだと